
薬剤使用期間中の患者のフォローアップについての解説
2019年12月に改正・公布された薬剤師法において、「薬剤師は、調剤した薬剤の適正な使用のため必要があると認める場合には、患者の当該薬剤の使用の状況を継続的かつ的確に把握するとともに、患者又は現にその看護に当たっている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない」という規定が明記され、「薬剤使用期間中の患者のフォローアップ」が法律として規定されました。今回は、この「薬剤使用期間中の患者のフォローアップ」について解説します。
薬剤使用期間中の患者のフォローアップの4つのポイント
・服薬のアドヒアランスの確認
-適切に服薬ができているか、できていない場合はその原因を確認
→服薬アドヒアランスの向上
・薬剤の効果の確認
-薬がどのように効いているのか、また効かない場合にはなぜ効かないのかを確認
→適切な治療へとつなげることができる
・副作用・有害事象の確認
-顕在化したもの:患者さん自身が実感できる
-潜在化したもの:患者さん自身が異変を感じても気にならない
→服薬期間中の変化を聞くことで、副作用の早期発見ができる
・継続的な支援(一元的・継続的管理)
-患者さん個別の情報に基づく服薬指導の実施
-服薬における不安の解消
-患者さん情報に基づいた医療機関との連携
→信頼関係の構築につながる
制度の背景(出典1、出典2、出典3)
「薬剤使用期間中の患者のフォローアップ」は、薬剤師が調剤・交付した薬剤を患者が使用している間、薬剤の使用状況、一般用医薬品等を含む併用薬、患者の状態や生活環境等を適切に把握し、薬学的知見に基づいて必要な対応を実施する薬剤師の業務の1つです。患者が薬剤を使用している間、安心して最適な薬物療法を受けられるようにすることが目的となります。「薬剤使用期間中の患者のフォローアップ」の考え方は、法律で規定される以前から日本薬剤師会の調剤指針(出典4)にも記載されており、2015年に厚生労働省から公表された「患者のための薬局ビジョン」の中にも組み込まれていて、決して新しい考え方というわけではありませんが、薬剤師法だけでなく、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、薬機法)」においても薬局開設者の義務として、薬剤師法に記載されている内容と同様の趣旨の規定が明記されて、フォローアップによって得た患者情報についても、医療提供施設相互間の業務連携の推進に努めることとして、初めて法律上で規定されました。
薬剤使用期間中の患者のフォローアップの流れ
日本薬剤師会が作成・公開している「薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き」(出典1)には、薬剤使用期間中の患者のフォローアップの流れとして、①初回来局時、②薬剤交付から次回来局まで、③次回来局時を一連のサイクルとして、継続的な薬剤管理を実施し、得られた情報の確認、分析及び評価の結果を今後の薬物療法や薬学的管理指導に適切に反映していくことを意識すると記載されています。各段階のフォローアップの実際は次のとおりです。
①初回来局時のフォローアップ
日本薬剤師会が作成した調剤指針(出典4)に基づいて来局時対応を実施することで、患者本人からの情報収集やお薬手帳などの確認を行うことで、患者情報を適切・的確に取得することが重要になります。調剤指針には、患者情報として次のことが挙げられています。これらの患者情報を取得することが一番初めに行うこととなります。
- アレルギー歴(医薬品、食品など)
- 副作用歴
- 既往歴
- 職業
- 生活の特性
- 積極的に摂取している食品や嗜好品
- 他科受診
- 併用薬剤(処方薬、一般用医薬品、民間薬)
- 服薬状況の確認
- 臨床検査値・TDMの確認
- 身長・体重
- 妊婦・授乳状況(女性のみ)
- 患者特性(薬識、認識力など)
②薬剤交付から次回来局までにおけるフォローアップ
この段階では、患者本人からの情報収集やお薬手帳などの確認により得られた情報を薬学的知見に基づき分析・評価し、患者への情報提供、薬学的管理指導、受診勧奨や、医師・医療機関への情報提供、処方提案、残薬調整等の必要な対応を行います。実際に行った内容は診療記録に残します。また、必要に応じて、適宜フォローアップの見直しを行います。
③次回来局時のフォローアップ
初回来局時および薬剤交付から次回来局前において実施したフォローアップの結果の確認・分析・評価を行い、次回来局までのフォローアップについて再検討を行います。
薬剤交付から次回来局までにおけるフォローアップの実践
薬剤師法の改正により主な焦点となっているのは、②の段階の「薬剤交付から次回来局までにおけるフォローアップ」が該当します。この段階のフォローアップは、処方に基づいて調剤した薬剤を患者に交付した後から、患者が次に薬局に来られるまでの間の臨床経過(変化)に注目して、問題が起きていないかどうかを判断することです。したがって、使用中の薬剤や一般用医薬品などを含む併用薬の確認だけでなく、調剤指針に挙げられている患者情報のうち、使用期間中に状況変化を及ぼすと思われる点について適切に確認し、薬学的知見に基づき分析・評価した上で総合的に問題が起きていないかなどを判断していきます。フォローアップは患者ごとに個別に判断するものであり、例えば、「ハイリスク薬に該当する」といった情報のみに基づいて機械的・一律に判断するものではないことに留意する必要があります。
薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き(出典1)より、薬剤交付から次回来局までにおけるフォローアップにおいて検討する上での要素には、次のことが挙げられます。
- 使用薬(ハイリスク薬 他)
- 併用薬(要指導医薬品、一般用医薬品、医薬部外品を含む)
- 積極的に摂取している食品や嗜好品(健康食品、酒・タバコなど)
- アレルギー歴(医薬品、食品など)、副作用歴
- 疾患(原疾患、既往歴、合併症及び他科受診で加療中の疾患を含む)
- 臨床検査値(腎機能、肝機能など)
- 薬剤等の使用状況(残薬の状況を含む)
- 薬剤使用中の体調の変化
- 年齢・性別
- 身長・体重
- 妊娠・授乳状況(女性)
- 職業
- 生活の特性
- 患者特性(薬識・認識力、生活機能 など)
また、「注意を要すると考えられる患者例」として、次のような具体例が挙げられています。検討したうえで、次回来局前にもフォローアップが必要であれば、その内容について患者や家族に説明し、理解を得るとともに連絡先を確認します。もし検討した結果、次回来局時に確認を行うことで良いと判断した場合においても、薬剤についての疑問や体調の変化および併用薬の追加等があれば薬剤師に連絡するよう患者に指導し、かかりつけ薬剤師・薬局として適切に対応する必要があります。
- 薬剤が適切に使用されていることを、次回来局時まで継続して確認しておく必要があると考えられる場合の具体例
- 治療有効域が狭い薬剤で、患者の生活環境から飲み忘れ等の懸念がある。
- 治療において長期的なアドヒアランス維持が重要となる薬剤で、認知機能の低下から飲み忘れ等が頻繁に発生する懸念がある
- 身体機能の低下からデバイスが正しく扱えることに継続して注意する必要がある。
- 患者の身体状態から、副作用の発現等に継続的に注意する必要があると考えられる場合の具体例
- 腎機能の影響を受ける薬剤で、原疾患・合併症等から副作用の発現に特に注意を要する。
- 特定の要素において副作用の発現頻度が増すことが知られている薬剤であり、今後の状態の変化に注意を要する。
- 抗悪性腫瘍剤など、初回投薬時においては特に注意を要し、またその後も患者の身体状態等から継続的に副作用の発現に注意を要する。
- 患者の生活習慣、生活像に係る情報等を踏まえ、定期的な状況の確認が必要な場合の具体例
- 看護人・介護人や患者の生活環境の変化により、薬物療法の継続に問題が生じないか確認する必要がある。
患者や家族などへの確認方法(出典1)
確認方法には対面のほか、様々な手段が挙げられるが、確認方法を選択するうえでは、「目的に照らして適当か」、「双方向性が維持されているか」が重要になると考えられます。確認したい内容に応じて確認方法を選択するわけですが、その手段を選択するうえでも薬剤師と患者または患者家族との双方向性が維持されている確認方法を選択する必要があります。
患者のフォローアップに関する記録の作成
患者のフォローアップにて確認して得られた情報およびその情報を元に分析・評価した結果と対応(患者への情報提供・指導)などについては、調剤録に記載します。2019年12月の薬剤師法の改正により、調剤録への記載事項として、情報提供と指導の内容に関することが明記されました。
処方箋医薬品以外の医療用医薬品、薬局製造販売医薬品、要指導医薬品、一般用医薬品を販売する場合の販売後フォローアップの考え方
これらの医薬品を薬局で販売する場合の販売後フォローアップの基本的な考え方は、処方箋に戻づく調剤の場合と同じです。処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売後フォローアップについては、薬機法により規定されていますが、薬局製造販売医薬品、要指導医薬品および一般用医薬品については、現時点で法律による規定はありません。しかしながら、当然、確認した内容の分析・評価結果によって、販売後の継続的な確認や利用者への受診勧奨等が必要になるケースが想定されますので、販売後フォローアップが必要となります。
薬剤使用期間中の患者のフォローアップのまとめ
法改正によって服薬のフォローアップは薬局・薬剤師の義務となりました。
薬局には、これまで門前薬局といわれてきた調剤中心の業務から脱却し、患者さま本位のかかりつけ薬局となることが必然とされるなかで、薬剤師によるフォローアップにも患者さまごとの細やかな対応が求められています。
こうした変化に対して「変化対応できる組織」を作るための準備や余裕はできておりますでしょうか?
『電子薬歴メディクスのメリット』
・薬歴入力時間の短縮による、接遇向上・服薬アドヒアランス向上
服薬アドヒアランス向上には、服薬指導に充分な時間が必要になります。薬歴にも患者さんの生活像や次回の服薬指導でどういった点を話そうかと書く必要があります。
そのため、紙薬歴をお使いの薬局様は電子薬歴を使うことにより、薬歴の入力時間を短縮できます。
・グループ連携強化
訪問調剤の報告書から情報提供書まで作成を支援する機能があり、地域連携薬局や健康サポート薬局としての機能を多数搭載。薬局様・薬剤師様への手厚いアシストができる電子薬歴です。
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https://medixs.jp/seminar/
出典
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薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き(第1.1版)
2020年9月 公益社団法人日本薬剤師会
https://www.nichiyaku.or.jp/assets/uploads/pharmacy-info/followup_1.1.pdf - 薬剤師法(令和元年法律第63号による改正)
- 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(令和元年法律第63号による改正)
- 第14改訂調剤指針 日本薬剤師会編 薬事日報社
